スマートフォンやタブレット端末の急速な普及により、ウェブメディアは今や最も手軽で身近なメディアとなりました。従来のいわゆる「紙媒体」に比べて、速報性や更新、訂正のしやすさというメリットがある一方で、信頼性がいまひとつ、というデメリットも指摘されています。
そこで今、ウェブメディアに掲載される記事(以下Web記事)において、「校正」という作業が大切になってきています。校正とは何か、またそれを担う「校正者」には何が求められているのか、などについて、現役の校正者であるFukushimaがお話しします。


ウェブメディアの弱点は信頼性



総務省の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」(2017年)によると、一般のメディアに対しての信頼度は、新聞68.7%、テレビ63.6%、インターネット30.8%、雑誌19.1%で、Web記事は新聞やテレビのほぼ半分の信頼度、ということになります。この信頼性を上げていくことが、今後のWeb記事の課題と言えるでしょう。




Webは「書き手」と「読み手」の距離が近い


信頼性の低い理由は、やはりWeb記事の特性として、記事の「書き手」と「読み手」の距離が非常に近いということがあります。紙媒体においては、いかにDTP技術が発達したといっても、原稿を本の形に整える組版作業、製本、流通、書店に並べる、というプロセスを踏みます。もちろん、事後の修正はできませんが、各工程においてそれぞれに作業ごとの細かなチェック作業があります。作業ごとに「慎重に」ことを運ぶということになります。
しかし、Web記事では、編集作業が終了したら、ほぼダイレクトに読者に届くことになります。公開した後の修正も多くの場合は可能です。そのため、残念ながら「慎重さ」を欠いた記事があるのも事実なのです。


長所はスピード感


いま「慎重さ」と述べましたが、ウェブメディアの長所は、まさにそれと二律背反の関係にある「スピード感」です。紙媒体では、流通過程も考えると、編集作業が終わってから読者の目に触れるまで、どんなに急いでも数週間はかかります。ウェブメディアでは、そのタイムラグはほぼ「ゼロ」と考えてもよいでしょう。
むしろ、過度の「慎重さ」よりも、タイムリーな話題をチョイスして、常に記事をアップデートしていく臨機応変さが大切になってきます。そのため、多くのライターが、短期間にたくさんの記事を書かなければなりません。そこにいかに「慎重さ」を確立させ、クオリティを担保するか、を担っているのが編集作業の一角である「校正」という作業、ということになるでしょう。


「慎重さ」とは何か


では、「慎重さ」を体現する校正・校閲とは具体的にどんなことを指すのでしょうか。
 端的にいえば、記事としてのある程度の一貫性、統一性に加えて、社会的な規範にのっとっているか、掲載されるサイトの性格に沿っているかといった一定の基準に合わせて文章を調整していく作業となります。
特に広告的な要素がある場合には、薬機法(旧薬事法)などの規制にも注意を払う必要があります。


校正者の作業とはどのようなものなのか



さて、「校正」という作業は、本来は元になる手書きの「原稿」と、それを活字化して印字した「印刷物」が「同一」であるかを確認することを指します。しかしながら、DTP技術の飛躍的な進展によって、"本来の"校正作業は、紙媒体においてもほとんど姿を消してしまいました。それでは今日、「校正」を担う「校正者」とは、いったい何をチェックしているのでしょうか。そこには大きく三つのポイントがあります。


1.「原稿」に書かれていることが正しいか

2.記事において、漢字の用法、送り仮名、外来語の表記などが統一されているか

3.常識的に考えて、「原稿」に書かれていることは必要なのか。またその現象はあり得るのか

この中で、最も大切なのは、もちろん「1」です。特にWeb記事においては、前述のように「信頼性」が問われますから、より重要とも言えます。さて、では「正しい」とは、何をもって「正しい」と判断できるのでしょう。


「正しい」ということの意味


一つは、「国語としての正しさ」です。「口語の文法」に照らして正しい日本語になっているか、その文章にふさわしい用語であるか、誤用はないか、慣用句の使い方は正しいか、呼応の副詞などが正しく用いられているか、などです。いわゆる"変換ミス"の発見もこれに属します。この作業は多分に、校正者の文章スキルに負うところが大きいです。

続いて、データや記録、固有名詞の「正しさ」です。ここでは、いわゆるメディアリテラシーの力が問われます。
社会的なものであれば官公庁や信頼できる団体の調査によるもの、スポーツなどの記録であれば主催者団体の公式発表、歴史的なことであれば最新の研究を反映している論文、などが「正しい」ことの1つの根拠になりえます。その検索には、もちろんインターネットを利用します。Web記事を校正するにあたってネット情報を利用する、というのは一見、矛盾した行為ですが、ネット上に氾濫するたくさんの情報の中から信頼に足るものを選び出すことが、ひいては全体の信頼度を高めていくことにつながるのです。もちろん、辞書や百科事典をはじめ、出版物も可能な限り参考にします。


表記が柔軟なウェブメディア

次に「漢字の用法、送り仮名、外来語の表記などが統一されているか」ですが、これはWeb記事ではあまり重要視されない傾向にあります。紙媒体でも、統一性を重んじる新聞・雑誌から、著者の意向が最大限に配慮される文芸書に至るまで、その程度は千差万別ですが、Web記事では一部の新聞社系のサイトなどを除いて、それほどの必要性が感じられていないようです。
ちなみに、本稿は『共同通信記者ハンドブック』に準拠して書いてあります。共同通信社の配信記事、多くの地方紙や雑誌などで援用されている表記です。
メディアによっては、送り仮名や外来語の表記統一以外に、漢字の用法も含めかなり細かな指定をされる場合もありますが、大量の文章を作成する中で、それらの統一を細かく図ることは、ウェブメディアにおける「スピード感」というメリットを喪失する原因にもなりかねません。特に重視されるのは読みやすさや、読者に対するメリットである、と考えるメディアが多く、いち早く必要な情報を届けることが重視される場合があります。
言葉は時代によって激しく変化します。年代によって読みやすい文章、気にする点なども異なるため、柔軟な対応が求められます。


意外に大事な「常識力」

最後に「常識的に考えて、原稿に書かれていることは必要なのか」ですが、これが意外に大切だったりします。例えば、ある場所へのアクセスを紹介する記事で、バスの便がある、と記述しているとします。ところが、そのバスは一日に1往復しか走っていない……としたら、どうでしょう。一日1本でもバスがあることは大切な情報ですが、仮にバスで行くとその日は帰ってこられない可能性もあります。「1本」であることを明記した上で、マイカーやタクシーを利用した場合のアクセスを併記すべきです。
もう一つ例を挙げましょう。夜行の高速バスで行くツアーの説明で、「深夜には車窓からきれいな三日月を見ることができます」。夜行バスは就寝時カーテンを締め切ることが常識ですし、そもそも三日月が出るのは夕暮れ時か早朝で、深夜ではありませんよね。そうしたことが、いわゆる「常識校閲」という範疇になります。


校正者による校正を入れるには


「校正」に要求されることをご紹介しましたが、では、そうしたスキルをもった「校正者」に依頼するには、どうしたらよいでしょうか。


校正者は、多くの場合、校正会社(校正プロダクション)に所属しています。新聞社や一部の大手出版社では「校正部」のような形で社員として校正者を養成、雇用していますが、そうした人たちは個人的なつてでもない限り、外部の仕事は請け負ってくれません。
校正会社と一口に言っても、会社として引き受ける場合、派遣のような形態をとる場合、フリーランスを紹介して「委託」する場合、など手配の仕方はさまざまです。それぞれの長所を挙げれば、会社は「作業の質や納期を会社として約束してくれる」、派遣は「校正者が常駐してくれる」、フリーランスへの委託は「誰が作業しているのか把握できる」ということになります。、逆にデメリットは会社では「実際に誰が作業しているのか分からない」、派遣では「作業場所を依頼側が確保しなくてはいけない」、フリーランスへの委託だと「技量を事前に知ることが難しい」となります。それぞれのメリット、デメリットを理解したうえで、校正会社に相談してみるとよいでしょう。


また、自社サイトや求人サイトで校正者を直接募集することも、もちろん可能です。しかし、その際はスキルや経験はあくまで「自己申告」になりますから、依頼する側でよく審査する必要があります。なお、客観的な校正スキルの評価として、民間のスクールが主催する「校正技能検定」というのがあります。校正会社でも、この試験の合格を条件にしているところもあるので、指標のひとつになるでしょう。


校正を外注する際に重要なこと



これはなにも「校正」に限ったことではありませんが、とにかく「納期」「報酬」を明示することです。「出来たらいついつまで…」という依頼は、間違いなく後回しにされます。どんな業界でも、スキルの高い人は忙しい!という原則は共通です。ただ、こと校正については、非常に大事なことがあります。それは、「どのようなレベルで校正するか」ということです。

以下の文章の校正を依頼したとします。


”わたしの会社は教育期間などでもシュアが随一のイスを製造していて、ふつうのOLに比べて給料がよいです。会社のろうかにはいつも商品が山積していて、低賃金の外人労働者が搬入のためやとわています。 ”

<校正例1>
わたしの会社は教育機関などでもシェアが随一のイスを製造していて、ふつうのOLに比べて給料がよいです。会社のろうかにはいつも商品が山積みされていて、低賃金の外人労働者が搬入のためやとわれています。

<校正例2>
 私の会社は教育機関などでもシェアが随一の椅子を製造していて、普通のOLに比べて給料が良いです。会社の廊下にはいつも商品が山積みされていて、低賃金の外国人労働者が搬入のため雇われています。

<校正例3>
 (校正者コメント=この文章は問題が多いので書き直すか、掲載不可にしてください。)





シェアが随一→根拠を明示してください。当社調べ、など。
普通のOLに比べて→「普通」の概念がわかりません。同年代の給与の調査などと比較してください。
会社の廊下にはいつも商品が山積み→消防法に違反している可能性があります。
低賃金の外国人労働者→給与における内外一致の原則に違反しています。

 例1は、誤字脱字のチェック、例2は「共同ハンドブック」による表記の統一、例3は「校閲」ということになります。
このレベル分けをきちんとしていないと、納品後のトラブルは必至です。それぞれの作業内容や手間暇が異なるため、事前にどのような校正が必要なのかを校正者としっかり確認をして、納期や金額の設定をする必要があります。

ウェブメディアにおける「校正」について、お話ししてきました。なんでもすぐにスマホで検索、という時代にあって、今後も掲載量が増えていくであろうWeb記事。そこに信頼性の向上という大きな課題があることは論をまちません。記者・筆者と読者との距離が近いぶん、よりタイムリーな話題を提供できるWeb記事だけに、正確性の担保は非常に重要になります。「校正」という作業は、人間が「間違える」生き物である限り、どんなメディアにおいても無くなることはないでしょう。





【かくたま校正者 まるちゃん】
校正歴30年。大学卒業の約2年後にバブル崩壊という、典型的バブル世代で、趣味との両立を最優先していたら大不況に突入。校正の心得があったため、某新聞社のアルバイトで校正者のキャリアをスタート。40代からフリーとして活動を開始、複数の大手出版社の外部校正者に採用され、総合雑誌や書籍で校正者としての基本を学ぶ。特にライトノベルはベストセラーのシリーズにも関わり、現在も年間30冊以上を手掛ける。野球を中心としたスポーツ系の依頼も多い。